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他の病気の薬が前立腺がんに活用できる!ドラッグリポジショニングとは


近年盛んになっているのが「ドラッグリポジショニング(DR)」。既存薬再開発とも言い、ある病気の薬を別の病気に活かせると発見することです。これにより、前立腺がんに有効な既存薬の存在が浮き上がってきました。その種類と発見の背景をご説明します。
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前立腺がんに有効だと判明した薬とは

既存薬を他の疾患の治療に転用する「ドラッグリポジショニング(DR)」で前立腺がんに有効だと判明した薬には、どのようなものがあるのでしょうか。

◎肝炎の「リバビリン」

「リバビリン」はC型肝炎の治療に使われてきた経口抗ウイルス薬です。前立腺がんでは、標準治療薬である抗がん剤「ドセタキセル」による治療で抵抗性を持ってしまった人が投与対象となります。と言っても、ドセタキセルの代わりとして使用するのではありません。効かなくなってしまったドセタキセルの感受性を再び機能させるための薬として、その効果が検証されています。

◎糖尿病の「メトホルミン」「GLP-1受容体作動薬」

現在、糖尿病の治療薬で抗腫瘍効果があるとされているのは「メトホルミン」という血糖降下薬です。血糖値を適切に保つことで、さまざまな合併症の予防を目指します。メトホルミンを服用していた糖尿病患者はがんにかかる人が少ないという観察研究がきっかけで、がん抑制効果が注目されました。そして、メトホルミンに続く薬として話題なのが、同じく血糖降下のための注射薬である「GLP-1受容体作動薬」です。2014年に、世界的糖尿病雑誌『Diabetes』に前立腺がんの進行を抑える可能性があるという論文が掲載されました。GLP-1受容体作動薬は前立腺がんを自壊させるわけではありませんが、細胞増殖シグナルである分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼを抑制することで、がん細胞の増殖を抑えていると考えられています。

◎消炎鎮痛剤の「アスピリン」

「リバビリン」や「メトホルミン」に比べ、一般的にも解熱鎮痛薬として馴染みのある「アスピリン」。実は欧米では早くから、アスピリンを長期間服用している人には大腸がんが少ないという研究報告があり、何らかの効果が期待されていました。2014年には日本の研究チームによっても大腸がん、乳がん、前立腺がんにおいて有意な死亡率の低下が認められています。

どうして別の病気に有効だと判明するのか

これまでは元々、副作用としてあげられていたことから、偶然新しい作用が発見される場合がほとんどでした。しかし最近では、ドラッグリポジショニングを新たな創薬理論と位置づけ、より効率的に別の疾患へも有効な薬効を探し出すための取り組みが行われています。各発見方法についてご紹介しましょう。

◎偶然の発見

臨床試験中の偶然の発見が多く知られています。高血圧の薬が発毛剤に転用された「ミノキシジル」や、狭心症薬の開発中に勃起促進効果が判明し、バイアグラとして実用化に至った「シルデナフィル」等があげられます。また、前立腺肥大症の治療薬として開発された「プロペシア」にも発毛作用が確認され、育毛剤として再開発されています。

◎メタ解析による発見

メタ解析とは複数の研究の結果を統合し、高い見地から分析を行うことを言います。良い結果だけを恣意的に抽出するのではなく、見つかったすべての研究が結果抽出対象です。また、根拠に基づく医療において、最も質の高い根拠であるとされます。具体的には「アスピリン」の服用による前立腺がん死亡ハザードの低下が認められています。

◎システムバイオロジーによる発見

システムバイオロジーとは、産業技術総合研究所の創薬分子研究センターが開発した新技術で、ブロード研究所(米ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が設立)などが公開する既存薬のデータベースを活用しています。どういう手法かというと、まず、がん患者の細胞と健康な人の細胞をもとに、さまざまな遺伝子の働き方を網羅的に調べ、病気に関係がありそうな遺伝子群を抽出します。そして、この遺伝子群の働きを逆転させる働きを持つ物質を、既存薬の公開データベースの中から見つけ出すのです。これにより、肝炎の「リバビリン」などが発見されました。自前に集めた薬剤データを公開データベースへ加え、大量のデータを解析することで、発症の仕組みが複雑な病気であっても、効果のある物質を数日で炙り出すことが可能になると期待されています。

既存薬を他の疾患の治療に転用する「ドラッグリポジショニング」のメリットは、安全性の検討が既に終わっていることが大きいでしょう。現在、純粋に1つの薬を開発するためには、500億円近い費用がかかると言われています。また3万分の1とも言われる低い成功確率も、新薬開発の大きな壁です。一方、ドラッグリポジショニングであれば、新薬の開発や研究よりも、かかる費用や年月を大幅に削減することができます。しかし、DRで効き目の高い薬を低コストで見つけることができても、対象の疾患や投与方法が異なることで、従来とは違った副作用が出る可能性もあります。従って臨床データの収集は必須ですが、ドラッグリポジショニングの利点を活かすことで早期実用化の一助となることは間違いありません。


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