前立腺がん治療を受けておられる方、治療が終わった方への情報サイト

ダヴィンチ手術後の早期回復にERASが効果あり


ロボット支援手術は、肉体的負担が少なく術後の回復期間も短いのが特徴です。
それに加えて「手術前の処置を簡略化」「補水と手術中の輸液を制限すること」で、術後に大きな合併症が発生するのを抑えられるのではないかと期待が高まっています。

輸液をする医師

■前立腺がんの手術後リスクは尿漏れ、性生活と思っていませんか?

前立腺全摘手術で起こりやすいのは尿失禁や勃起障害といわれていますが、前立腺がんの手術に限らず開腹手術全般において、「イレウス」という後遺症が存在するのを知っていますか? 「イレウス」とは腸管の通過障害のことで、「腸閉塞」の状態のことです。消化管の中が流れなくなり、腹部の膨満感や痛み、嘔吐などの症状があります。開腹手術は腸管が癒着しやすく、場合によっては、再度外科的治療が必要になる可能性もあるため、術後のイレウス対策は患者さんのQOLを維持する上で非常に重要です。術後の腹腔内は癒着が生じやすい状態です。癒着の主な原因は手術による腹腔内への外部からの刺激です。血小板の数が少ない人や血液の凝固系に異常がある人は、術後の腹腔内に出血しやすいので注意が必要です。腹腔内に血液が溜まるとそこに菌が感染することがあり、それが膿瘍となって癒着の原因になることがあります。

術後の腸閉塞はすぐに起こるものばかりではなく、数年経過して忘れたころに起こることもあります。ですから、術後イレウス対策は患者さん自身による日頃の注意や、退院後の検査を定期的に行うことも重要なのです。

■手術後の早期回復を図るERAS

ERASとは「Enhanced Recovery After Surgery」の略で、術後回復を高めることがエビデンスで確立された計画的管理手法です。手術療法は患者さんの身体にとって大きな負担となります。手術を行う方法だけでなく、術前・術中・術後の周術期を、医師だけでなく臨床検査技師、診療放射線技師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士など様々なスタッフがチームとなりサポートすることで、術後の早期回復に向けて患者さんの治療にあたるプログラムなのです。

◎ダヴィンチによる前立腺全摘手術におけるERASとは

ERAS導入後、順天堂大学病院(順天堂医院)では、ダヴィンチによる根治的前立腺全摘術(RALP)をした約400名のうち、イレウスチューブが必要になった人はもともと腸管癒着のあった1名のみ(0.25%)であるという好成績を出しています。

ERASは病院によって異なり、順天堂医院の周術期プロトコルは以下の通りです。

食事 飲水 輸液
手術前日 21時~絶食 自由
手術当日 絶食 OS-1を2本かつ
2時間前まで自由
手術中 麻酔科管理
手術後 絶食 アルジネートウォーターを2本かつ
4時間後から自由
80mL/h
手術翌日 朝・昼ペプチーノ1本ずつ
夕食:全粥食
自由 食事ができれば終了
手術翌々日 通常食

※下剤・浣腸処置はしない

また、関西医科大学腎泌尿器外科学講師の杉素彦氏らにより、ダヴィンチによる根治的前立腺全摘術(RALP)の際に、術前の消化管処置の簡略化、経口補水療法、術中輸液制限によるERASを導入することで、安全かつ従来の管理法と同等の周術期成績が認められていることが明らかになりました。検討方法としては、ダヴィンチ手術の症例を対象に、通常の周術期管理をした従来群123例とERAS群75例について、術後消化器官の開腹と周術期パラメータを比較しています。ERAS群では術前処置をセンノシドのみに簡略化し、経口補水及び、術中輸液の制限を設けました。必要以上の輸液は浮腫(むくみ)を生じさせたり、消化器官の回復を遅らせたりするといわれています。

■ERAS導入により術後の重い合併症がなくなった

関西医科大学の周術期データを比較すると、術中輸液量は従来群に比べてERAS群では少なくなっていた他、術後の初回排便日もERAS群で有意に早いという結果となっています。過剰輸液は術後の合併症発生率を高めるとされており、従来群では外科的治療が必要になるイレウスが2例認められたのに対して、ERAS群では外科的治療介入を必要とする合併症は認められませんでした。このことからも、術中輸液量の減少との関連性が推察されます。また、ERAS群で初回排便日が早くなっていることが明らかになっていますが、その意味合いや術後イレウス予防との関連性については、今後の検討課題であると杉氏は述べています。

 

ERASとは特別な薬剤や手術法ではありません。これまでの科学的根拠に基づいた周術期管理によって、術後の回復能力を高め、合併症を減らし、安全性を向上させ、早期社会復帰できることで経済的にも患者さんにとって大きなメリットを与えるチームプログラムだといえます。具体的には手術前の充分な情報共有、麻酔や鎮痛薬による痛みのコントロール、飲食制限期間の短縮、手術中の体温維持、過剰な輸液の抑制、早期の離床などです。一つ一つは小さなことですが、これらを積み重ねることで患者さんの回復能力が大幅に強化されるのです。


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