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ホルモン抵抗性前立腺がんの新規治療薬


現在の我が国では、腫瘍マーカーのPSAによる検診の普及により、前立腺がんはほとんどのケースが早期がんで診断されます。しかし、骨転移を伴った進行がんで前立腺がんが発見されるケースも約15%はあり、治療には男性ホルモン(アンドロゲン)遮断を目的としたホルモン治療が行なわれています。転移性前立腺がんに対するホルモン治療は、初めはほとんどのケースにおいて有効です。しかし、治療後ある一定の期間で、がんはホルモン治療に抵抗性を示してしまいます。この状態が去勢抵抗性前立腺癌(CRPC: castration resistant prostate cancer)といいますが、2014年にCRPCに対する新規薬剤が本邦でも一気に3種類が承認されました。

ガン細胞ターゲット

これらは大きく分けて、男性ホルモンを阻害する薬剤と細胞障害性の抗がん剤に分かれます。

 

■男性ホルモンを阻害する新規薬剤

酢酸アビラテロンやエンザルタミドは、男性ホルモンの生合成そのものを阻害する薬です。男性ホルモンの受容体に作用する従来の抗男性ホルモン薬とは異なり、精巣・副腎・前立腺内すべてにおいて、男性ホルモンがつくられるのを抑える働きがあります。内科的または外科的去勢術を行い、その後に進行または再発が認められた場合に使用します。これらは抗がん剤のドセタキセルの使用の前でも後でも、去勢抵抗性前立腺がんの全生存率への有効性を示しました。

◎酢酸アビラテロン

商品名:ザイティガ(2014年7月承認)

・副作用

比較的多いのは、手足のむくみ、ほてり、吐き気、便秘、下痢、めまいなどです。高血圧になりやすい他、低カリウム血症や肝機能値の異常、高脂血症がみられる場合がありますので、この薬剤を使用する際には必ずステロイド内服を併用しなければなりません。それでも、定期的に採血などの検査を受け、重篤化しないように注意が必要です。めったにないとはいえ、重篤化すると、心臓障害や肝機能障害、低カリウム血症による不整脈などを引き起こす恐れがあります。

◎エンザルタミド(MDV3100)

商品名:イクスタンジカプセル(2014年3月承認)

・副作用

国内外の臨床試験では、何らかの副作用が66~69.3%に認められていますが、その主な副作用は、吐き気、嘔吐、高血圧、便秘、疲労、食欲減退、体重減少、無力症、ほてりなどです。まれですが、重大な副作用としては痙攣発作が報告されています。そのため、てんかんや痙攣性疾病のある人は注意が必要です。

 

■細胞障害性の抗がん剤の新規薬剤

前立腺がんの治療において、ホルモン療法が効かなくなった場合、いわゆる抗がん剤のドセタキセルによる化学療法が取られるのが一般的です。しかし、ドセタキセルによる化学治療では耐性ができ、症状が進行してしまうことがあります。そうなるとドセタキセルによる治療は中止せざるをえなくなります。カバジタキセルは、ドセタキセルと同様にタキサン系の抗がん剤で、ドセタキセルによる治療ができなくなったとき等に使用します。
正常な細胞は、臓器が一定の大きさになると細胞増殖が止まりますが、がん細胞は、細胞分裂を繰り返して増殖することをやめず、増殖のスピードが速いという特徴があります。抗がん剤はその特性を利用して治療をします。カバジタキセルは、細胞内の微小管に作用して細胞増殖を阻害する抗がん剤で、がん細胞を分裂させずに死滅させるという考え方で、薬が開発されました。ドセタキセルもメカニズムは同じですが、前立腺がんの細胞は、ドセタキセルを細胞外へ排出するため耐性が生じる一方で、カバジタキセルは細胞外へ排出されないために生存期間の延長に寄与する治療法であると期待されています。

◎カバジタキセル

商品名:ジェブタナ(2014年7月承認)

・副作用

骨髄抑制(白血球、血小板の減少)が高頻度で出現し、発熱性好中球(白血球の一種)減少などの厳しい副作用のリスクがあります。これに対しては、持続型の好中球増加剤(GCSF製剤)の登場により比較的管理がしやすくなり、ほとんどのケースでカバジタキセルに併用して使用されています。またカバジタキセルは発熱性好中球減少の他の副作用に関しては、ドセタキセルと比べて、管理しやすいとされています。まれですが起こりうるのは、腎不全、腸炎、下痢、心不全、末梢神経障害、アナフィラキシーショック、肝機能障害、播種性血管内凝固症候群、急性膵炎、心タンポナーデ、体液貯留、浮腫、心筋梗塞、静脈血栓塞栓症、間質性肺疾患などが臨床試験で認められました。

 

さらに、以前より使われており、CRPC患者の全生存率の延長に最も寄与した薬剤といえる細胞障害性の抗がん剤ドセタキセル治療も、その使用のタイミングにおいて大きな変革を迎えるかもしれません。その根拠となる報告が2015年8月に発表され、通常ならホルモン抵抗性になってから使用すべきドセタキセルを、高リスクの前立腺がんに対しては、ホルモンにまだ感受性のある段階から使用することで生存期間をより延長できるかもしれないという報告です。我が国ではまだこれに関しては十分に試されてはいませんが、今後はドセタキセルを使用すべきタイミングが、より早期にシフトしていくとともに前立腺がんの予後も延長できるかもしれません。

 

■前立腺がんへの分子標的薬

分子標的薬とは、がん細胞の増殖、浸潤、転移に関わる分子を標的として、特定の分子を効果的に狙い撃ちすることでその機能を抑制し、より安全に治療することを目的に開発された薬です。これまでの抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃してしまうため、重い副作用が伴うことが最大の欠点とされてきました。これに対して分子標的薬は、がん細胞が増殖したり転移したりする特定の分子だけを認識し、攻撃するのが特徴です。全く正常な細胞にダメージを与えないとまではいかないのですが、従来のがん治療薬に比べると副作用が少ないとされるものが多く、患者さんの負担が軽減されるというメリットがあります。分子標的薬で以前より使用されているのは、慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ(グリベック)、肺がんに対するゲフィチニブ(イレッサ)などです。泌尿器科領域では、進行性腎がんに対して、現在は広義の分子標的薬も含めて6種類が使用できます。前立腺がんに対するは分子標的薬も海外では数々の治験がなされてきました。しかし、海外でも有効性と安全性において承認に至った分子標的薬はなく、男性ホルモンの経路に治療が依存する前立腺がん治療には、分子標的薬は開発しにくいというのが現状です。

 

■がん抗原を標的とするワクチン治療

前立腺がんの95%にある前立腺酸性ホスファターゼ抗原(PAP)を標的とする、活性免疫製剤として開発されたのがシプリューセル-Tです。無症状か症状の少ない、転移性の去勢抵抗性前立腺がん患者に対して使用する治療ワクチンです。シプリューセル-Tは既成の薬ではなく、白血球アフェレーシスという採血法で患者の血液を採取し、そこで取り出した白血球を特別なタンパク質と一緒に培養し、患者ごとに製造されるワクチンです。製造に手間がかかるため、治療3回分で約800万円と高額なため、米国では承認されているものの、我が国では現実的な選択肢としては、まだまだ課題を残しています。一方、前立腺幹細胞抗原 (PSCA) に対して免疫反応を仕掛けるように設計されたワクチンは、がん治療の改善、将来的にはがん予防に繋がるのではと期待されています。

◎シプリューセル-T

商品名:プロベンジ

シプリューセル-Tの有用性は、大規模ランダム化比較試験であるIMPACT試験で検証されました。512人の去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とし、生存期間中央値において、プラセボ群が21.7か月であるのに比べて、ワクチン群では25.8か月と有意に改善しました。

・副作用

主な副作用は、悪寒、疲労、発熱、背部痛、悪心、関節痛および頭痛。いずれも軽度から中等度の症状で、短期間で治まるとされています。

◎前立腺幹細胞抗原(PSCA)抗体による免疫療法

成体の前立腺においては活発な細胞増殖は見られませんが、その再生能力から多分化能を持つ幹細胞と分化過程にある前駆細胞の存在が示唆されていました。PSCA は、前立腺に主に発現し、未分化細胞が存在すると考えられている基底層に発現します。

昨年2015年に、アステラス製薬の連結子会社であるAgensys社とBellicum社が、このPSCA抗体を用いたキメラT細胞による養子細胞療法に関する開発及び商業化の権利を全世界においてライセンス契約を締結しました。この治療は、前臨床試験で強力な抗腫瘍効果を示しており、PSCAは大きな可能性を有するがん標的分子であることが期待されます。今回のライセンス契約は、アンメットニーズの高い去勢抵抗性前立腺がん治療において、近年中に臨床段階まで進展させられることへ大きく踏み出したといえます。

 

 

根治的治療ができない去勢抵抗性前立腺がん患者にとって、これらの治療薬が次々と開発され、認可されることは、大きな希望となるでしょう。ただし、薬の選択順位やどのように使うかは未だ確立されていない部分もあります。副作用によるQOLの問題も併せて、どのような治療を選ぶのかが今後の課題となっていくでしょう。


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