テストステロンが高いと前立腺がんになりやすい?
男性ホルモンのテストステロンが高いと前立腺がんなどの男性臓器の病気やAGA(男性型脱毛症)など男性特有の病気にかかりやすいのでしょうか?実は男性ホルモンが多いことは健康にとって必要なことで、テストステロンが悪いわけではないのです。詳しく解説していきます。
テストステロンの働き
テストステロンとは男性に多く分泌される男性ホルモンの主なもので、その大半が精巣で作られています。男性に比べると量は少ないのですが、女性も卵巣や副腎で作られます。テストステロンは生殖機能の発育にも影響しており、髭や体毛、筋肉や骨格の成長を促す働きがあります。生まれた時にオチンチンがついてくる、外性器の形成の一次性徴、および少年が思春期にかけて大人っぽくなる第二次性徴にはテストステロンが必須です。また、集中力や判断力、記憶力などの認知機能にも関与しているといわれています。ちなみにテストステロンの量はAGAの直接の原因ではなく、テストステロンが変化したジヒドロテストステロンが脱毛作用をもたらすといわれています。ジヒドロテストステロンが生成される量はAGAの遺伝による部分が大きく、テストステロンの量が多くてもAGAの遺伝を持っていない人の場合はジヒドロテストステロンが増えることはなく、薄毛が促進されることもないようです。
◎テストステロンの平均値
テストステロン値が低いと性機能障害、筋肉量の減少、内臓脂肪の増加、貧血、骨密度の低下を引き起こし、からだに深刻な影響を及ぼします。テストステロン値は1日のうちに変動します。朝高く夕方に低いため、午前8時~11時までに採血をするのが望ましいとされています。定期的に測定が必要な場合は、毎回同じ時間帯で検査を行うのが理想的です。
◎テストステロンが高い人の特徴
テストステロン値が高い人には以下のような傾向がみられると言われています。
- チャレンジ精神が強い
- リーダーになりやすい
- 地図を読むのが得意
- 縄張り意識が強い
- インチキが嫌い
- 自分の不利益を顧みず社会のために働ける
◎テストステロン値が低下すると起こること
テストステロン値がストレスなどにより低下すると以下のような症候のリスクが高まります。メタボリック症候群
- 心血管疾患
- 糖尿病
- 呼吸器疾患
- 抑うつ状態
- 性機能低下
- 認知機能低下
- 骨粗鬆症
- 内臓脂肪の増加
- インスリン抵抗性の悪化
- HDL(善玉)コレステロール値の低下
- LDL(悪玉)コレステロール値の上昇
◎男性更年期障害と治療法
男性のテストステロン値は、個人差があります。70歳代でも30歳代並みの数値の人もいれば、50歳代でもすでに70歳代並みの値まで下がってしまっている人もいます。テストステロン値が下がってくると、さまざまなリスクが高まってきますので、テストステロン値をどうキープしていくかが、鍵となります。加齢男性でテストステロン値が低下するLOH症候群は、男性更年期障害の主な原因の一つです。更年期障害というと女性のイメージが強いため、男性にはまだまだ認知度が低く、いろいろな症状が出ていても男性更年期障害だと気付かれない場合も多いようです。また女性のように閉経のおよそ5年前後という目安時期もないのも、男性更年期障害がわかりにくい理由の一つです。体の症状、心の症状、性の症状で気になることがあったり、家族や周囲の人から指摘をされたりしたら、早めに医師に相談してみましょう。男性更年期障害の専門病院ではテストステロン値の他に体脂肪や筋肉量、骨密度や夜間睡眠時勃起力などを測定し、症状の診断をした上で、テストステロン補充療法(TRT)による治療が可能です。TRTの方法は経口剤、注射、皮膚吸収剤がありますが、日本国内の保険適用は注射のみです。
テストステロンと前立腺がんの関係
前立腺がんにはテストステロンのレセプターがあり、がんがテストステロンを栄養にして成長していることがわかっています。テストステロンを薬で下げると、栄養補給ができなくなったがんは一時的に衰弱します。
◎前立腺がんができるのはテストステロンが多いからではない
テストステロンと前立腺がんの関係から「前立腺がんに男性ホルモンはよくない」という誤解が生まれ、定説として浸透してしまいましたが、前立腺がん自体はテストステロンとは関係のないところでできることがわかっています。ですから男性更年期障害の治療でTRTをしている人も「テストステロンを補充すると前立腺がんになるリスクが増えるのではないか」という心配はしなくて大丈夫です。前立腺がんができるのはテストステロンが多いからではありません。また、発生してしまった前立腺がんはテストステロンの影響で大きくなりますが、同時にがんが悪化しないように制御する役割も担っていることがわかってきました。
◎前立腺がんはテストステロンを栄養に成長
前立腺がんの疑い・発見があれば、がんの栄養源であるテストステロンを増やさない治療になるのが一般的であるため、男性更年期治療におけるTRTはストップすることになります。
以前は男性ホルモンが前立腺がんの発生や成長を促進していると考えられていたため、一律にテストステロンを下げる治療が行われてきました。しかし、最近ではがんの状態に加えて、患者さんの本来のテストステロン値が高かったか低かったかを考慮して治療法を選択するようになってきています。すでにがんが転移している場合以外は、テストステロンを安易に下げてしまうことでLOH症候群となってがん以外の病気を悪化させてしまうことも考えられるからです。そういった意味ではテストステロンは健康のバロメーターともいえるかもしれません。